砂漠

海に浸かりたくなった。

できれば頭まで浸かりたかったけど、なにも用意していなかったため足だけ。

くつ下を脱いで、パンツの裾をまくり、いちゃつくカップルを尻目に、ずんずん浜辺を歩く。

花火とかペットボトルとか、ゴミが多い。

東北のハワイと呼ばれる浜辺はそれはもう美しく静かで、人も少しで、自分もただの落し物だと思った。

みんなそう思っていることだろうけど

私の中で、海は少し遠く怖い存在になった。

波の感じを遠目から見るだけで近寄ることができなかったし、音も波の感じにも懐かしさとか、海辺でレゲエ聴きつつ気持ちいい!全力ポジティブ!みたいな感じにはなれない。

でもいざ海に浸かってみると

全てを舐め尽くし命や生活を彼方にさらった海は、汚染されつつも、しかし優しい癒しとか、海の食べ物や生活や、足の裏をくすぐる波のいやらしい感じとか

近くでみる表情は、当然であるが慣れ親しんだものに戻っており、人間が作り出したもので汚れているのにと悲しくなった。

気持ちの落とし所はまだないけれど、近くに行けるようになったぶん、少し楽になった気がする。

海にさらわれた人々がどうか、海に包まれていい気持ちでいられますようにと心底願う。

死んだ魚が浜に上がっていた。なんども、自分も落し物だと思った。

後ろを振り返ると砂漠のようだった。バグダッド・カフェみたい。

自分はだれのものでもないと誰かが言っていたのをふと思い出した。

私だって、私だけのものだと思った。同時に、私はなにものなんだろうとも。

あのとき私はちょっと頭がおかしくなっていて、これは言いたくなかっただろうって事まで言わせていたなと冷静になった今、反省している。

犬が近寄ってきて、足を舐められた。

足を洗おうと思って水道に行ったら、まだ止まっていた。今年は海水浴できないもんね。

まわりで色々動きがあって、ひとつひとつが本当のことだけど、気持ちとか持ち物とか、自分のものは出来るだけシンプルにぶれなく。

海に浸かったおかげで、すごく穏やかな、いい気分になれた。

やっぱり浜通りの子なのね。

少なくとも、私の立ち位置くらいは知ってる。

今日で4ヶ月。まだまだ…だな。。