なまえ
「海はいいね」
「うん、海はいい」
「ハワイみたいでしょ?」
「そうだね、広いし、砂浜も」
「やばいねあれちょっと恥ずかしいよね」
「入場って感じだ。悪いけど面白いね」
「ああ海見ちゃってるよ」
「私たちも見てるけどね、でもあれちょっとした舞台みたいだもんね」
「遠目から見てる私たちも私たちだよね」
「痛さで言えばこちらのほうが痛いね」
「痛いね。あ、退場するよ」
「こっちにくるね」
いつの間にか眠ってしまっていて、見ていた夢は、いつかの海に行ったことそのままだった。
にぎっていた携帯を見たら朝で、机の上には空のクールマイルドの箱と飲みかけのワインが置いてあり、パソコンの灯りが眩しく痛かった。
メールを返してから窓を開けて空気を入れ、外は完全にまだ暗く、わたしはまだ夢と現実のさかいめにいて、少し混乱した。
海に行っていたんじゃなかったっけ。
その少しあとに、一緒に海に行ったその人からメールが来た。
わたしの名前だけ、ひとつ書いてあり、「はいはい」と返したらその人は「呼んだだけじゃ」と返してきた。
牛わっさーのカーテンを買ってしまった女友達。
友だちからも前の恋人からも、ひらがなの響きで「はるえ」と呼ばれるのが好きだった。今でも好きだ。
無性に名前を呼んで欲しいと思ってしまったが、それはきっと変な寝方をして風邪気味になってしまったから。