フライデースノウイングナイト

金曜日。
ニコンでも撮っていたのだった。下手なりに、もっときらめかせたかった。
好みの雪がふり、まさに犬みたいにえじりとニコニコして、クレープソールのブーツはつるつると滑った。



土曜日。
久しぶりに映画館で映画を観た。
リーガル時代から目をかけてくださっているお客様に「仕事の話をしたいのです」と呼ばれて行ってみると
「映画を観に行きましょう、あなたにぴったりな映画があるから」と車に乗った。

ことし72歳。仕事で都内といわきを行ったり来たりの生活。
外食ばかりだけれどあまりジャンクフードに縁がなく興味があったようで、食べてみたいと買ったひとつ950円する高いハンバーガーとコーラを車の中で食べた。

「あまり美味しいものではない。でも、こういうこともたまにはいいですね」と食べていた。ソースがこぼれたりバンズが崩れたりして、その度に笑った。

出かけるときは、いつも運転をしてくれる。

いつもお洒落なロマンスグレーで、靴はいつもピカピカで、背の高い彼の靴を選ばせてもらえる事が、とてもとても誇らしかった。
来店されると1番奥の椅子に座って、鷹揚にフィッティングさせてくれた。「あなたの好きなように、僕に似合う靴を」と。
修理をしながら大切に大切に履いてくれるお客様。

4年前に、思うところがあって退職するのです。申し訳ありません。とご挨拶した時に、彼に「困るのです」と言わせてしまった。
たくさん買ってくださったのに退職なんて不義理をかました私なのに、その後も何事もなかったかのように連絡をくれる。本当にありがたいことだと思う。



映画が進むにつれ、どうしてこの映画が私にぴったりなのだろうと思う内容で、しかし結末で彼の意図がわかった。
「ね、あなたのような人だったでしょう?」と言われ、結末が結末だったから苦笑いで返すしかなかった。
「そろそろ、好きなように真剣に生きてもいいと思う。あなたなら、あの後どうしますか?」と言われた。

帰りの車で「むつかしいクイズなので、答えは次にお会いする時までに出しておきます」と言うと、彼は笑いながら「そうですか」と言った。

また会いましょうと送って頂いて別れた。
今朝方にメールが届いていた。実は病気で都内の自宅に戻ると書いてあった。
自宅ホスピスにすると書いてあった。

「あの答えは不合格です。」と結んであった。

たしかに不合格だ。

人生に次なんて確かなものはない。即時に答えを出して失敗し、後悔していかなければならないのだと思う。