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日記を書かなくなってからどのくらい経つだろうとふと思い、開いたらもう1年くらい書いていなかった。
ちょっと前に、えりちゃんと書く練習でブログを書こうよなんて話してもなにせ書くことがなくあって書けない話が多く、結局書かないいまま、気がついたら長い文章が書けなくなっている。

日付を追う仕事だけに1年があっという間で、打ち合わせはもう年末の仕事だし、ぼんやり過ごすと気がつけばおばあさんになっていそうで、ふと鏡をみると目の下にクマを飼い疲れた顔の私でたまにぎょっとする。ボヤキを書いたらきりがない。

先日、父のことをゆっくりと思い出すことがあった。父が勤めていた会社のお客様、聞けば父と同期の仲間だったそうだ。

健ちゃんの下の子か!じゃあはるえちゃんだ、健ちゃんあんたのことよく連れて歩いてたな。そうですね、山でもパチンコ屋でもキャンプでも、どこでも連れていかれました。
もう10年になるな、そうですね、よく背戸峨廊にキャンプに行ったんだ、内郷の保線区で一緒だった、酒を一緒にのんでかあちゃんの名前の歌 歌ってたぞ、あれなんて歌だったっけ。幸子ですか?それだ。よっく歌ってたっけなあ。あの歌わたしもよく聞かされました。仲よかったもんなあ、健ちゃんと母ちゃん。そうですね。

子どもは後回しで、いつもふたりきりの両親だった。父が会社の飲み会で「幸子」を歌っていたと聞かされても、恥ずかしさよりもまず納得した。

健ちゃん死んだとき、母ちゃんとたかえちゃんロッカー整理しにきたっぺ。そうです。車でいって、荷物たくさん持って帰ってきました。足りなくてあとでわたしも行きました。うん、ロッカーは家族じゃなきゃ整理できねえんだ、母ちゃんいっぱい泣いてたな。そうだと思います。たかえちゃんは泣いてなかったな。そうですか。長生きしても下手なやつだけこうやって酒飲んでんだ。いいじゃないですか、生きてるから飲めるんですよ。そうだな。元気でな。はい。

帰宅して母に報告したら、ああ嫌だなあと涙ぐんで「おぼえてない、あのときお母さん必死だったから」とつぶやいて寝てしまった。

「幸子」という歌の歌詞を覚えておらず、父がからっと歌っていたから、こざっぱりした歌だと思いつつ検索してみたら鉛色みたいな歌だった。

暗い酒場の片隅で
オレはお前を待っているのさ
サチコサチコ お前の黒髪
オレは今でもお前の名を
呼んだぜ呼んだぜ
冷たい風に

これ歌われて、母は嬉しかったんだろうか。私なら恥ずかしくて死にそうになりそうだ。

父は亡くなって四十九日の朝、家族全員の夢に出てきた。わたしはそれ以来、たぶん父の夢を見ていない。