いわき総合高校演劇部のこと

去年、いわき総合高校演劇部の演劇をはじめて観劇した。
彼らが抱えている想いを、ドッジボールみたく胸で受け止めた気がして涙が止まらず、突き動かされるようなものをからだの中に感じた。

演劇に縁などなかった。高校演劇なんてもう横目だ。

なのにあの感覚はいったいなんだったのだろうと今でも考える。
私の高校生活はバイトにはじまってバイトに終わる生活だったと思う。学費もそれでまかなっていたし、それが当然だと思っていた。なにより働くことが勉強するより面白かった。
コンビニのバイトはいろんな人が来る。
精算前の牛乳を店の中で飲み干して空のパックを持ってくるおばさんとか、レジの目の前にあるカリカリ梅を万引きして毎回つかまっては許されてしまう青年、バイトの私たちにクリスマスケーキひとりあたま2個買ってくれと言う店長、夜になると徘徊しにきて保護される痴呆のおじいさん。

そんな社会をみて、高校生活そのものは半端に送って、商業高校なのに簿記検定は結局取らず、かわりに英語検定(バイトで役に立つかもしれないから)を取って許された高校生だった。


早弁し早退してまでバイトに励む高校生活を送ってしまい、その延長線のまま労働生活がつづく私が高校の演劇部にハマるわけである。
というか、高校演劇ではなくて、総合高校演劇部の学生たちなのだ。なんていうか、かわいいのだ。

そんな彼らに自分たちの人生をまざまざと見せられてしまい、思わずわが身を振り返ってしまった。

本当は英語を勉強したくて進学したかった。
でも叶いそうになかったし、気がついたら3年の卒業で、わたしは高校生活というものにあまり思い出がないまま卒業を迎えた。
面白かったのだ。それでも。
昼食代を節約する為にみんなでホットプレートを買って焼きそばを焼いてその日に没収されたり、教室は学校一きたなくて授業をつぶして掃除したり、クラスの子達とは仲が良かった。
でもそこに熱いものはなくて、わたしはどこかで熱を欲していたのかもしれない。



彼らのこれからがいっぱいつまった演劇はわたしにとってとてもまぶしい。
いわき総合高校演劇部の「CUQP」はエチュードからはじまったそうだ。
アドリブから、人生のひとかけらをつむいで構成され演劇になっている。

ある子は母子家庭から父子家庭になり、ある子はお兄さんのおさがりの服がイヤだ。
ある子は津波で家を流され仮設で暮らしながら恋をする。
ある子は富岡から避難を繰り返し、いわきの同級生に溶け込めないし、ある子は自分の馴染んでいた景色が震災後変わっていくことに拒否反応を起こす。

舞台の上でいろんな感情や人生が交差し、みんなで振り返り、話をして笑い、駆け回る。
わたしには舞台が彼らにとっての「心の避難所」に見えた。抱えているものをそこに置く避難所。
そしてわたし自身の人生や震災を振り返り、向き合うきっかけになった。


なにより、彼らの伸びやかでまっすぐなところが大好きなのだ。
舞台上で決して「明るく健やかに」だけでなく、自分のおなかのなかまで表現する。イやな部分もきちっと見せる。
見せながら、解決できないことも抱えつつ、えいっと突破して彼らは進む。



彼らが届けてくれる未来は、決して高校生だけがもつ若さの未来だけではないと思う。
同年代の子たちだけでなく、なにか違和感がありながらしかし日常に忙殺され、どこか醒めた目になってしまっている大人たちに観てもらいたいと思うのだ。

「CUQP」は私たち大人の忘れ物を、取りにいかせてくれるきっかけになるような演劇なのではないかと思っている。




そんないわき総合高校演劇部「CUQP」自主公演のお知らせです。
現在の彼らでしか観ることができない「今」をぜひ。

今回が最後です。前のめりでお勧めです。

2月18日(木)19日(金)
いわきアリオス
18:00開場、18:30開演
予約不要、入場無料


いわき総合高校演劇部twitter

https://twitter.com/iwaki_ahiru013